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周期性嘔吐症候群とは

周期性嘔吐症候群(CVS; Cyclic Vomiting Syndrome)は、その名前の通り、周期的に嘔吐を主症状とする発作をくり返す疾患です。

発作と発作の間では、患者は普通のひとと同じように元気に振る舞うことができますが、ひとたび発作を起こすと、数時間~数日間、嘔吐を中心に腹痛や偏頭痛、めまいなど多様な症状が現れます(患者による個人差が大きい疾患です)。
​原因も諸説あり、治療法も決め手となるものはありません。日本では主に小児科(内分泌・代謝・消化器など)で診察が行われていますが、海外では成人でも発症をするケースの報告が増えています

小児の場合は、重症度によっては"小児慢性特定疾患"という枠組みによって国からの医療費助成が受けられる疾患です。

詳しくは、小児慢性特定疾病情報センターのページをご覧ください。

成人期の周期性嘔吐症候群については、現在は医療費助成の受けられる"指定難病"にはなっていません。
​ただし、平成​29年には、その候補にあがるなどの動きが見られます。(厚生労働省 指定難病検討委員会
その際は「診断に関し客観的な指標による一定の基準が定まっている」という要件が満たされていないということで、
​指定難病への指定は見送られました。

​また、医師の中でも知名度がそれほど高くない病気です。かつて周期性ACTH症候群、周期性ACTH-ADH放出症候群、アセトン血性嘔吐症などと呼ばれていた疾患は、現在は周期性嘔吐症候群と同じものとされているのでご注意ください。
​(小児慢性特定疾病情報センター:消化器疾患

日本での調査報告は少なく、これから実態をつかんでいくことも、患者会としての大きな役割だと考えています。

周期性嘔吐症候群の概要

周期性嘔吐症候群の概要

周期性嘔吐症候群の診断基準

現在、日本では下記の診断基準1-5によって、周期性嘔吐症候群が診断されています。​

  1. 以下の2 および 3 を満たす発作が 過去に5 回以上ある

  2. 1時間~10日間続く、強い悪心と嘔吐の周期性発作を呈し、個々の患者で毎回同様の発作様態を示す

  3. 発作中嘔吐は少なくとも4回/1時間の頻度で、1時間以上続く

  4. 発作間欠期には無症状

  5. 嘔吐の原因となるその他の疾患によらない

周期性嘔吐症候群の診断基準

現在、日本では下記の診断基準1-5によって、周期性嘔吐症候群が診断されています。​

  1. 以下の2 および 3 を満たす発作が 過去に5 回以上ある

  2. 1時間~10日間続く、強い悪心と嘔吐の周期性発作を呈し、個々の患者で毎回同様の発作様態を示す

  3. 発作中嘔吐は少なくとも4回/1時間の頻度で、1時間以上続く

  4. 発作間欠期には無症状

  5. 嘔吐の原因となるその他の疾患によらない

周期性嘔吐症候群の診断基準

現在、日本では下記の診断基準1-5によって、周期性嘔吐症候群が診断されています。​(小児慢性特定疾病情報センター

  1. 以下の2 および 3 を満たす発作が 過去に5 回以上ある

  2. 1時間~10日間続く、強い悪心と嘔吐の周期性発作を呈し、個々の患者で毎回同様の発作様態を示す

  3. 発作中嘔吐は少なくとも4回/1時間の頻度で、1時間以上続く

  4. 発作間欠期には無症状

  5. 嘔吐の原因となるその他の疾患によらない

小児の場合は、下記の基準に当てはまれば、医療費の助成を受けることができます。

①又は②に該当し、かつ③を満たす者を対象とする。

  ①特徴的嘔吐発作を過去に5回以上起こした場合
  ②特徴的嘔吐発作を6か月間に3回以上起こした場合
  ③薬物療法を要する場合
 註1.特徴的嘔吐発作とは、以下をすべて満たす場合とする。
     発作は個々の患者で同じ発作型で概ね予想可能な周期で起きる
           発作は強い嘔気・嘔吐が1時間に4回以上みられる
     発作の持続は1時間から10日まで認められる
     発作と発作の間隔は症状から解放される
 註2.薬物療法は補液療法を含む。

 

国際的には診断基準として、Liらが作成したガイドライン *1 のほか、"ROME-Ⅳ基準" *2 が用いられています。

​上記の日本の診断基準も、これらを参考にしています。

誤診されるものとして、胃腸炎、胃食道逆流、食中毒、再発性のかぜ、摂食障害などがあります。

バイオマーカーと言った決定的な診断基準は、現在のところありません。医師でも診断が困難な疾患です。

一定の「周期がある」ということが特徴ですので、記録をつけるなどして必ず周期を確認するようにしてください。

 

また、重症度の基準として、Dr. Venkatesanらが提唱しているものがあります。*3
 (軽度) : 救急や入院がない、発作が年間4回以下、日常生活を送ることができる 

(中~重度): 頻繁な救急・入院、発作が年間5回以上、日常生活に大きな支障が出る

(参考文献)

*1 B.U. Li, F. Lefevre, G.G. Chelimsky, et al.(2008) North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition consensus statement on the diagnosis and management of cyclic vomiting syndrome. J Pediatr Gastroenterol Nutr, 47: 379-393.

*2 Stanghellini V, Chan FK, Hasler WL et al (2016) Gastroduodenal disorders. Gastroenterology 150:1380–1392

*3 Bhandari, S., Jha, P., Thakur, A. et al. Clin Auton Res (2018) Cyclic vomiting syndrome: epidemiology, diagnosis, and treatment. Clin Auton Res. 28(2) 203-209.

周期性嘔吐症候群の病態

周期性嘔吐症候群は、【発作期(Ⅱ~Ⅳ期)】と、その間の元気な【間欠期(Ⅰ期)】に病態が分かれます。

85%の患者は、季節等にもよるが、ある程度一定の周期で発作が起こると報告されています。*1

 

​下の図と説明は、CVSAのイギリス支部に掲載されていたガイドラインを簡略化したものです。

                        (ガイドライン自体もFleisher DRらの2005年の研究をもとにしたものです *1)

■ Ⅰ期: 嘔吐がなく、症状もない間欠期

   この時期は、普段と変わらず元気であり、普段と変わらない生活が出来ます。

   偏頭痛がある場合は、次の発作の原因となりやすいので、予防薬(プロプラノール、サイプロヘプタジンなど)を服用します。
   早朝に発作を起こす場合は、睡眠中の空腹が誘因となるので、長時間エネルギーが補充できるコーンスターチを就眠前胃に
   摂取することも有効だと考えられています。
   次の発作に対する精神的・身体的ストレスに対しては、心理カウンセリングが発作の回数を減らすのに有効とされます。

■ Ⅱ期: 嘔吐の前兆があらわれる時期

   患者は、発作が起こった場合、なんとなく今から発作が来そうだ、ということが分かります。
​   このⅡ期は患者によって長さがまちまちで、数分~数日の開きがあります。だいたいが深夜か早朝に現れます。
   この時期を早めに察知し、発作の兆候を抑え、次のⅢ期につながらないようにすることが、この時期出来る予防法となります。
   具体的な前兆は、個人差はありますが、寒気・顔のほてり・腹痛・頭痛・汗・震え・動悸・呼吸が荒くなる・光や音に敏感に
​   なる、といったものがあります。小児では、0.5~1.5時間ほどⅡ期が続きます。

■ Ⅲ期: 嘔吐発作期

   激しい嘔吐が続く時期で、最も苦しい時です。無気力となり、発作に伴う頭痛や腹痛もこのときがピークです。
   できれば静かで暗い部屋で横になって安静に寝ます。過敏になっていることが多いので、できるだけストレスを与えないように
   してください。また、嘔吐を繰り返すため、脱水症にならないように注意してください。吐いて大部分もどしてしまうとして
   も、水分補給だけはしっかりとするようにしてください。あまりにも頻繁に嘔吐する場合は、点滴が必要になります。
​   寝ている傍らに洗面器などを置いてあげ、いつでも吐けるようにしてあげてください。

​   その他の随伴症状として、下痢・顔の赤み・唾液分泌の亢進・平衡感覚の失調(空間識失調)が生じる場合があります。*2

​   数時間~数日続きますが、1週間にわたるという報告があります。*3

■ Ⅳ期: 回復に向かう時期

   空腹感や食欲が戻ってくると、発作が回復している証拠になります。
   患者本人と相談して、まずは食べやすいものを食べさせてください(アイスやゼリー、うどんなど)。
   発作直後は、体重が大きく減っていたりナトリウムやカリウムといった電解質が不足しているので、補うようにしてください。

◇ 発作期のトリガー

  Ⅱ期以降の発作を起こすトリガー(誘因)として、知られているものがあります。
  76%の小児の患者、63-80%の成人の患者が発作期がはじまる前に何かしらのトリガーがあったと報告しています。*4

  例えば、間欠期の身体的・心理的ストレスがあります。*5

  身体の疲労や睡眠の乱れ、風邪などの感染症、季節の変化などは身体的なストレスとなって発作を誘発します。

  一方で、(嫌だなというものに加えて楽しみなものも含めて)心理的に負担の大きいイベントや、次の発作が来るかもしれない

  という恐怖感は心理的なストレスとして誘因となります。

  また、普段の食事で誘因としてあげられるものとして、チーズやチョコレート、アレルギーのある食品があります。

  67%の患者は「嫌な出来事」が最も大きなトリガーだと述べています。*2

  ただし、発作のトリガーは患者によっても異なる個人差の大きいものなので、
​  注意深く生活を観察して個別に対応する必要があります。

◇ 周期性嘔吐症エピソードダイアリー

  上記の通り、間欠期の状況や発作の頻度・内容は、個人差が大きく、研究の結果もまちまちです。
  ただ、患者個人個人のなかでは、ある程度一定しているものだと考えられます。

  個々の患者の発作・間欠期の特徴を把握して発作に対処しやすくするために、
  1回あたりの発作状況を記録していくことが重要です。

  アメリカの患者会ですすめられている「エピソードダイアリー(発作の記録)」を日本語に訳しました。

  右アイコンからダウンロード可能ですので、ぜひ記録を残して、発作・間欠期の症状の特徴を把握してみてください。

(参考文献)

*1 Fleisher DR, Gornowicz B, Adams K, Burch R, Feldman EJ (2005) Cyclic vomiting syndrome in 41 adults: the illness, the patients, and        problems of management. BMC Med 3:20

*2 Venkatesan T, Sengupta J, Lodhi A et al (2014) An Internet survey of marijuana and hot shower use in adults with cyclic vomiting syndrome (CVS). Exp Brain Res 232:2563–2570

*3 Abell TL, Adams KA, Boles RG et al (2008) Cyclic vomiting syndrome in adults. Neurogastroenterol Motil 20:269–284

*4 Bhandari, S., Jha, P., Thakur, A. et al. Clin Auton Res (2018) Cyclic vomiting syndrome: epidemiology, diagnosis, and treatment. Clin Auton Res. 28(2) 203-209.

​小児期発症と成人期発症の違い

周期性嘔吐症は、成人でも発症する病気ですが、その発症頻度は分かっていません。子どもは、アメリカやトルコの調査で、5-17歳の児童の2%にみられるという報告があります。

過去に発表された論文では、小児発症のものと成人発症のものとでは、右のような違いがあるとされています。ただ、成人期での調査はまだ進んでおらず、これからの研究の蓄積が待たれます。

​治療について

1. 間欠期に行うもの *1

 間欠期に行う治療には、「発作のトリガーを避ける」ものが考えられます(上記のトリガーの説明を参照ください)。
 月に1度以上の発作がある場合、1回あたりの発作が3日を超える場合などは、下記のくすりが予防薬として挙げられます。
 全員に効果があるものではありませんが、発作頻度の軽減や発作時間の減少、発作の激しさを抑える効果があるといわれています。

 (偏頭痛薬)アミトリプチン

 (偏頭痛薬)プロプラロノール
 (偏頭痛薬)シプロヘプタジン  ※ 親に偏頭痛歴がある場合、偏頭痛薬が奏功することがあります。

 (抗けいれん薬)フェノバルビタール

 (抗けいれん薬)バルプロ酸

 (抗けいれん薬)カルバマゼピン

 (サプリメント)L-カルニチン

 (サプリメント)コエンザイム Q-10

2. 発作期に行うもの *1

 発作期には、嘔吐期の軽減を目指して以下のくすりが挙げられます。

 (偏頭痛薬)スマトリプタン

 (制吐剤) オンダンセトロン

 (鎮静剤) ロラゼパム

 (鎮静剤) クロルプロマジン

 (鎮静剤) ジフェンヒドラミン

 (鎮痛剤) ケトロラク 

 また、発作期には、音や光の刺激の少ない部屋でよく寝られる環境を整えることが重要です。
​ 頻回に嘔吐する場合には、輸液が必要になる場合もあります。

3. カウンセリング・認知行動療法など

 近年の研究では、​特に小児科領域において、発作のトリガーや患者や家族のQoL(Quality of Life; 生活の質)に、

 恐怖・不安感情や発作に対するコントロール感といったの心理社会的要因が影響することが明らかになってきました。*2 *3 
 そのため、患者に対して、心理的なカウンセリングや認知行動療法によって、発作に心理的に上手く適応できたり、
 発作そのものが軽減されるケースもあるようです。*4

 

(参考文献)

*1 Venkatesan T. Cyclic Vomiting Syndrome. Handbook of Gastrointestinal Motility and Functional Disorders. 131-140. 

*2 Tarbell S, Li BU. Psychiatric symptoms in children and adolescents with cyclic vomiting syndrome and their parents. Headache 2008; 48:259–266.

*3 Tarbell S, Li B. Anxiety measures predict health-related quality of life in children and adolescents with cyclic vomiting syndrome. J Pediatr 2015; 167:633.e1–638.e1.

*4 Slutsker B, Konichezky A, Gothelf D. Breaking the cycle: cognitive behavioral therapy and biofeedback training in a case of cyclic vomiting syndrome. Psychol Health Med 2010;15:625-31. 

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